雲の上の存在達

その頃指導されていた先輩には、黒崎建時先生、その後にいらした石橋雅史先生、大山茂先輩、中村忠先輩、岡田博文先輩、それから大山泰彦先輩方がいらっしゃいました。さらに、小沢一郎先輩や、先程お話ししました藤平昭雄先輩がいらしていました。そういった黒帯の先輩達が、前にずらっと並んで指導されていました。

そういった先輩方の迫力には凄いものがありました。 また、白帯よりも黒帯の方が多いという時期もありました。

かつての大山道場時代の先輩方で、空手の技を身につけて、空手が強いということであれば、やはり安田英治先生、石橋雅史先生のお二人がまず最初に頭に浮かんできます。しかし、このお二人の組手は好対照な動きをしていました。

安田先生は、松濤館ではなく松濤会流の空手を長年やっていて、基本に明けて基本に暮れるという具合に基本稽古を徹底的にやられていました。つまり、寸止めの空手をずっとやっていたのですが、実際に当てる実戦空手を提唱した大山総裁のお考えに共鳴して、大山道場の師範代として指導されるようになったのです。一方、石橋先生は剛柔流でした。

安田先生は質実剛健、直線的なスピードのある組手で、前蹴りと正拳突きをよくされていました。石橋先生は、猫の動きのような、柔よく剛を制すという動きで、回し蹴りを多用されていました。

安田先生の前蹴りは定評がありまして、「予告前蹴り」といわれていました。あらかじめ「前蹴りをするから、受けろ」と言われて、相手は来ると分かっていても受けられなくて、後ろに吹っ飛ばされましたね。あの先生は、「一拳必殺」という強さを身につけた方だと思います。

岡田博文先輩も非常に強い方でした。身長はそれほどありませんでしたが、均整の取れた、がっちりとした体をしていました。当時、空手界ではまだめずらしかったボディビルディングを積極的に取り入れて体を鍛えていました。  その頃は、空手をやる人達は、私もそうだったのですが、重たいものを持ち上げるとスピードが落ちるからと嫌がっていたんです。

何といっても、空手に最初にパワーを持ち込んだのは大山総裁でしょう。それは、アメリカに渡って、プロレスラーと対戦されて、やはり、スピードだけでは限界があると実感されたからだと思います。

総裁はウェイトトレーニングをされていましたが、他の道場では、せいぜい昔から伝わる、ウサギ跳びとか腕立てぐらいでした。他の道場にもバーベルくらいはあったようですが、軽いものを上げて、スピードを衰えないようにしていたようです。総裁のようにそれを重視して、しょっちゅう重いバーベルを持ち上げるようなところはなかったようです。

岡田先輩は、総裁の仰っていた「地に沿った基本、理に適った型、華麗なる組手」の全てを満たした動きをされていたと思います。強いだけではなく、美しい空手で、岡田先輩も本当の空手の技を身につけた数少ない一人ではなかったかと思います。

あの岡田先輩の綺麗な空手は、基本を徹底的にやっていたからこそのものでしょう。それと、常に顔面や金的を意識した動きをしていました。

今の人にああいう空手はまねできないでしょう。

大山道場時代の昇級・昇段の審査会は一年に春と秋の二回だけ行われていました。ある時の審査会で、二段の岡田先輩と初段の中村忠先輩が、それぞれの昇段審査に臨みました。そして、審査の最後に、この二人が組手を行いましたが、あれこそが空手の組手であるという素晴らしいものでした。

今の極真の試合では、「始め!」と号令をかけられると、いきなりつっこんでいくというようなものが見られますが、そういうものとは全く違い、二人の先輩は互いに見合って、回り込みながら間合いを測っていくのです。

ある瞬間、相手の隙をついて中に入り、互いに技を応酬したかと思うと、またパッと離れて、間合いを測りながら円を描いていくことの繰り返しでした。この息をのむような組手は、まさに虎と獅子との闘いのようでした。

その時、私はまだ白帯でしたが、自分もこういう先輩達を目指して頑張らなければいけないと気を引き締めました。

一方、黒崎先生は、「肉を切らせて骨を断つ」というような、非常に荒々しい実戦的な空手をされていました。

私がよく覚えているのは、ある時、黒崎先生に対して、ある茶帯の先輩が組手をした時のことです。その先輩も体が大きくて、私達には大変恐ろしい存在でした。  その組手の時の黒崎先生の構えは変則的でした。右手で相手側を向いている顔の左側をカバーしているんですが、掌は開いて相手側に向けていました。左手は、背中に回して、手の甲を背中に付けて、少し屈むようにして、相手を斜め下から見るような構えでした。

それで、その先輩はどこを攻撃したらいいだろうかと考えて、構えの空いている、左の脇腹に前蹴りを入れると、黒崎先生は、その前蹴りを避けもせずに当てさせて、そのまま後ろに回していた左手の弧拳打ちで、先輩の顔面を思いっきりたたきました。先輩がすっ飛んだのは言うまでもありません。

後は、黒崎先生が三分間その先輩を道場中を引きずり回して、組手が終わった頃には、その先輩も立ち上がることもできないような状態で、一言「強い」と言ってがっくりと肩を落としたのを今でも覚えています。

黒崎先生は本当に強く恐ろしい先生でした。

中村先輩も強い方でした。

ただ、中村先輩は、ドンドンと間合いを詰めていって、前蹴りや逆突きといった技を出していくような、当時の非常にオーソドックスな組手をされていたと思います。

一方、変則的と言えば、柔道上がりの渡辺一久先輩は、相手の顔面に拳をたたき込んでから、道場の板場に背負い投げでたたきつけ、その後寝技に持っていきました。あの先輩に顔面をたたかれた後輩は随分いると思います。

渡辺先輩は、柔道の技を空手に持ち込んだと言えるでしょう。


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