はじめに

私が生まれたのは日本統治時代の台湾です。平和で安定した社会でした。教育は行き届き、町は綺麗で、泥棒も少ない、とても暮らしやすい社会だったのです。また、私の父は土木技手で官庁に勤めていましたので、比較的裕福な中に育てられ、大変幸福な子供時代を過ごしました。

それが一九四五年、戦争の終結で全てが変わってしまいました。国籍が、それまでの日本人から中国人へと変わり、日本の教育を受けた私達よりも遥かにレベルの低い中国人が台湾を統治するようになったのです。彼らは、過去の日本統治は全て悪であると、全くの嘘を宣伝し始めました。そうやって、日本を否定し、台湾を中国の支配下に置く計画でした。

しかし、台湾に住んでいた五十万人の日本人が帰国しても、残された、六百万人の台湾人はそう易々と変えることは出来ませんでした。二年後の二・二八事件がその証です。出鱈目な統治に耐えきれなくなり、台湾人が抗議に立ち上がったのです。しかしながら、外来政権が徹底的な虐殺と弾圧を行い、その後の白色テロの時代も合わせると、三万人とも、それ以上とも言われる自国民が殺されるという悲劇が起きたのです。

幸いにして、私達は子供の頃、教育勅語と武士道の躾の中に育てられました。この教育が苦しい時代にあっても、私の一生の助けとなりました。本当に、過去の日本の教育は立派でした。

戦後、日本人が帰国してしまっても台湾に残った私のような日本語族を「帰らざる日本人」と人は呼びます。

日本の教育を受けた私達の世代は、その日本精神によって、台湾をより良い国にしていく義務があると思って頑張っています。日本の若い人も、私の体験に耳を傾けて、昔の日本の素晴らしさにきちんと気付いて欲しいと思います。台湾と日本が、共に昔のような素晴らしい国になってくれるのが私の願いです。

私も、数えで八十路にさしかかりました。もう間もなく師走を迎えますから、あと一月もすれば、八十一になることになります。益々、老いることの難しさを感じます。夢あっての良き人生です。桜の花出版の皆様には、出版に際しての御骨折り、厚く感謝致します。

心所願

平成十六年十一月三十日

蔡 敏三


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